突然のテレワークが決まり、戸惑っている方も少なくないでしょう。そこで『サイボウズ流 テレワークの教科書』から、テレワーク時に役立つ考え方ややり方を探ってみることに。テレワークを何年もかけて追究してきたサイボウズ社のノウハウなら参考になるのではないでしょうか。

『サイボウズ流 テレワークの教科書』とは

グループウエア「サイボウズoffice」シリーズや自社メディア「サイボウズ式」などを手掛ける、サイボウズ。『サイボウズ流 テレワークの教科書』は、サイボウズがこれまでに実践してきた、テレワークについてのノウハウをまとめた本です。「ICT・勤務環境」「コミュニケーション」「マネジメント」の3つを軸に書かれており、テレワークの導入段階から、実際にテレワークを行ううえで起こる可能性のある問題に対してのノウハウが記されています。

実際に『サイボウズ流 テレワークの教科書』を読んだうえで、経営者、マネージャー、メンバーが、テレワークをより快適に行うためのポイントを探っていきます。

ICT/勤務環境

経営者はICT環境の整備が必須

会社側がテレワークを検討するにあたり、まず問題となるのが導入コストではないでしょうか。テレワークをする際に必要不可欠なのは、「ハードウェア」「ソフトウェア」「ネットワーク環境」などのICT環境です。

・ハードウェア・・・パソコンやWebカメラ、マイクなど
・ソフトウェア・・・「業務を補助するITツール」のことを示し、チャットシステムやTV会議システム、資料などを共有するための「グループウェア」など
・ネットワーク環境・・・インターネット回線や、テザリング、モバイルWi-Fiなど

経営者や幹部などは、これらを社員の私物でまかなうか、会社が支給するかなどを決めていく必要があります。本書ではサイボウズが実際に行った方法などが記されているので、参考にすると導入コストが押さえられる可能性があります。

マネージャーは作業環境の整備の働きかけが必須

テレワークはオンライン環境を整えただけでは、うまくいきません。在宅勤務の場合、作業をする椅子やデスク、照明などの作業環境も整える必要があります。

本書では「作業環境の整備に関しては、会社側から働きかけることが大切です。 マネージャーからチームメンバーに声をかけ、それぞれの作業環境に問題がないかを確認しましょう。(引用文)」と、メンバー一人ひとりの環境にまで気を配る必要性を訴えています。

作業環境の整備をする基準として、厚生労働省の資料URLを公開しているので、参考にしてみてはいかがでしょうか。

会社側が率先して、メンバー一人ひとりの作業環境を整える手助けをしていくと、メンバーの会社への信頼感が増し、離職率にも差がでてくるのではないでしょうか。

セキュリティに関するガイドラインを周知し、実行する

テレワークによける情報漏洩のリスクは、企業の課題ともいえます。本書では情報漏洩リスク対策にも言及しています。

「マネージャーは、チームのメンバーにガイドラインを周知して、各自のセキュリティ意識を高めることに尽力するべきです(引用文)」
とあります。

どこの企業でもセキュリティに関する事項は、メンバーに伝えていることでしょう。しかし注意事項を配布するだけでは、なかなか浸透しにくいものです。企業価値を守るためにも、漏洩リスク対策の徹底はマスト。

そこで本書ではただ伝えるだけではなく、「各自のセキュリティ意識を高めること」をマネージャーに課しています。逆にいうと、それだけセキュリティには細心の注意を払う必要があるということです。テレワークを行う際、カフェのように情報漏洩のリスクがある場所で作業する場合もあります。マネージャーだけではなく、メンバーの日常的な心掛けが大切といえるでしょう。

コミュニケーション

オープンコミュニケーションが基本

テレワークにおけるコミュニケーション不足を懸念する経営者は少なくないでしょう。
本書では「テレワークでは可能な限りオープンなコミュニケーション方式をとることをおすすめします。(引用文)」とし、コミュニケーションをとりやすい環境づくりをし、チーム間の認識のずれを防ぐための施策も記されています。

コミュニケーションが滞りがちなチームの場合「返信がこないけれど、確認しているだろうか」という不安が生まれやすく、信頼関係が築きにくくなってしまいます。場合によっては「重要なメールが埋もれてしまい返信しそびれてしまった」可能性もあります。これを単なる「ミス」ととらえるか、コミュニケーションの取り方に問題があったと考えるかでは、雲泥の差。

もしかしたらツールをメールからスラックやチャットにするだけで、「ミス」が減る可能性もあります。ツールの特性や、チームの目的に配慮したツール選びをしていくのもコミュニケーションの1つといえるのです。

本書では、どのようなツールを選ぶと良いかについても言及しています。基本的に複数の人が見ることのできるオープンなコミュニケーションが可能な、チャットやTV会議などのツールを選ぶことをすすめています。

「情報伝達」と、意見や感情を伝える「会話」

「物事の事実について伝える「情報伝達」だけでは なく、 自身の意見や感情、解釈を伝える「会話」が大切になります。テレワークでも、業務上のやり取りだけではなく、チームのメンバーとの会話の機会を作る必要があり ます。(引用文)」

と本書にあるように、サイボウズではメンバーとの「会話」の作り方にも気を配っています。チャットを使っておこなう「分報」と、TV会議で話す「ザツダン」を行っているそうです。

「分報」とは、チャットに設けた雑談スペース。これまで会社で「疲れたから休憩!」などと交わしていた会話を、オンラインで行える居場所です。

「ザツダン」は、マネージャーとメンバーがTV会議で対話することです。1対1のときもありますが、1対複数のときもあります。ザツダンは進捗状況のヒアリング時間ではなく「何を話してもいい場」。そう言われても、何を話せばいいか分からない……という人のためにサイボウズでは、メンバーの現状を理解するための工夫も行っており、その方法が本書にも記されています。

サイボウズでは、ザツダンのほかにもオンラインでの飲み会やイベントを実施し、コミュニケーションを図れる機会を多く持っているそうです。

サイボウズが行っている、テレワークにおけるコミュニケーションの取り方は、どのような企業でも参考になる点があると思います。なかでもTV会議でのザツダンは、正直最初は抵抗があるかもしれません。しかしテキストにとどまらないTV会議での対話に抵抗感がなくなると、コミュニケーションがより深まりやすくなるといえます。

会社側は設備投資をすれば、テレワークがうまくいくと考えがちです。

それだけでメンバーの満足度は上がったといえるでしょうか。経営者やマネージャー側から、メンバー同士がコミュニケーションを持ちやすくなるような仕掛けを作っていくことも大切です。

マネジメント

思い込みを捨てる

「すべてをマネージャーがやらなければいけないという思い込みを捨てて、チームメンバーの能力や意欲に応じて、 仕事を任せるようにしましょう。(引用文)」

これまで記した通り、マネージャーの業務はさまざまです。すべてをマネージャーが行うと手薄な工程が出てしまう可能性があります。「この仕事は、この人が担当」という枠組みを捨てて、任せられる人に任せたほうが、上手くいく場合もあります。その可能性を見極めるのも、マネージャーもしくは経営者の役割といえます。

とくにテレワークでは、オフィスで仕事をしていたときとは違う気遣いや工程が必要となります。なかにはオンラインでのコミュニケーションが得意な方もいるかもしれません。適した人材に任せて、より多くの人が活躍できる場を設けることで、メンバー全体の士気もあがっていくはずです。

上層部が率先する

「 一旦はテレワークを導入したけれど、 制度が全く使われないままというチームもあるかもしれませ ん。 そこで マネージャー にできることは、 まず自分が率先してテレワーク制度を積極的に使ってみせることです。(引用文)」

本書ではマネージャーが率先して制度を使うことを推奨しています。そうすることで、他のメンバーも制度を利用しやすくなるためです。マネージャー自ら実際に使ってみることで、制度の改善点が見え、よりよい方法をメンバーに提供しやすくなるでしょう。これはマネージャーだけではなく経営者にもいえることです。経営者自らテレワークを実践することで、メンバーだけではなくマネージャーが迷ったときの指標になるはずです。

勤怠管理はガチガチに行わない

会社がテレワーク導入の際に、気にしがちなことの1つに「メンバーの勤怠管理」があります。『サイボウズ流 テレワークの教科書』では、勤怠管理は「過去の報告」と考え、「テレワークで勤怠管理の量が多くなると、過去の話を報告する時間ばかりが増えてしまいます。それよりも、この先どんなことをしていきたいか相談に乗るなど、未来の話を聞くことに多くの時間を割く方が、より建設的(引用文)」と記しています。

勤怠管理を減らすことで、仕事の管理をそれぞれに任せるわけです。そのためにも、サイボウズは対面(TV会議)でのコミュニケーションを大切にし、日頃から信頼関係を築いているわけです。

成果主義に偏らない

テレワークの場合、仕事をしている様子がなかなか見えないため数値などで判断する、成果主義になりがちです。サイボウズでは、給与の評価とは別に「成長評価」を採用しています。

メンバー自身が自分の年間の成長目標を設定するもので、年度終わりにマネージャーとその成長度合いを話し合います。こうすることで目に見えにくい、成功するためのプロセスや、それを支える意欲、能力などを評価しやすくなります。

マネージャーが一人ひとりのメンバーの意向を知ることで、仕事の役割分担にも影響をあたえ「より熱意のある人材」を起用することにもつながるでしょう。このように成果主義だけではない、目に見えない部分の人事評価を加えることは、適材適所の人材起用にも貢献でき、その結果、メンバーのモチベーションアップも期待できます。

『サイボウズ流 テレワークの教科書』を読んで、テレワーク導入へ!

『サイボウズ流 テレワークの教科書』には、さまざまな角度からテレワークの成功の秘訣が書かれています。その中でも共通して感じたのが「テレワークは設備投資をするだけでは始まらない」ということ。だからこそ日頃から、会社側がメンバーとのコミュニケーションを図ろうとする姿勢を見せておくことが大切なのです。

メンバー全体に浸透すると、自然とメンバー同士でのコミュニケーションにもつながります。いい仕事は、良好な環境から生み出されるものです。テレワークを検討している方は、ぜひ『サイボウズ流 テレワークの教科書』を参考にしてみてはいかがでしょうか。

「サイボウズ流 テレワークの教科書」
 発行 総合法令出版
 著者 サイボウズチームワーク総研
 形態 単行本(ソフトカバー)
 定価 ¥1,650