昨今、日本国内においても注目され、ニュースでも見聞きするようになった「人的資本経営」ですが、どのようなものかご存知ですか?

今回は、今後、働くすべての人に関係してくる「人的資本経営」というキーワードを紐解きながら、テレワーカーとしてどこに注目していけばよいのかについて、解説します。

人的資本経営とは何か?

人的資本経営とは

人的資本経営とは、企業における従業員といった人材を「資本」として捉え、その価値を最大化することで、中長期的な企業価値向上につなげようとする経営のあり方です。

今までの一般的な企業経営においては、人材は「コスト」や「資源」と捉えられていましたが、人的資本経営においては、価値を生み出す経験やスキルをふまえた「資本」と捉えるため、非常に大きな視点の転換があることが分かります。

従来の経営と人的資本経営について、経済産業省によるいわゆる「人材版伊藤レポート」では、以下のように比較されています。

出典:人的資本に関する研究会 報告書〜人材版伊藤レポート2.0〜|経済産業省

例えば、従来的な経営においては、終身雇用や年功序列といった日本企業が長く持ち続けてきた慣習にあるように、人材を囲い込む形でしたが、人的資本経営においては雇用者と被雇用者がフラットで柔軟な関係性であることが想定されています。

他にも、人事が制度設計等により管理・運用を円滑に行うことが目的であったのに対し、経営戦略と密接に紐づいた人材戦略を立案し、実行する部署・役割と捉えられるといった違いがあります。

参考:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~|経済産業省

なぜ今、人的資本経営が注目されるのか?

日本で人的資本経営が注目される少し前から、世界ではすでに動きがありました。

2020年、日本に先立って、アメリカの証券取引委員会(SEC)がすべての上場企業に対して人的資本の開示を義務付けています。これらの動きには、世界的な市場において、インターネットサービスといった「無形資産」の価値の割合が増加していること、ほか、ESG経営といって「Environment (環境)」「Social (社会)」「Governance (ガバナンス) 」に考慮した持続可能な経営が注目される風潮の中で、人的資本経営の注目が高まったという背景があります。

日本においては、2016年頃から動き出した働き方改革により、ようやく働き方に関わる制度が整いつつある中で、より深刻になる労働力確保といった企業課題、先述の経済産業省が2020年に発表した「⼈材版伊藤レポート」の発表にも後押しされる形で、人的資本経営の注目度が高まっています。

2023年より義務化された、人的資本開示とは?

人的資本経営に注目が集まる中、いよいよ2023年より、上場企業に対して人的資本の開示が義務付けられました。2023年3月31日以降に決算を迎える企業から開示が始まっており、すでに数千社の有価証券報告書が出揃ってきています。

人的資本の開示項目は7分野19項目あるのですが、現在開示が義務化されているのは「人材育成」「多様性」の2分野で、実際のところ表現の仕方もかなり自由度が高い状態です。

このような状況だからこそ、より企業の文化や色が見えやすいとも言うことができます。

出典:日本経済新聞

テレワーカーが人的資本開示に注目すべき理由

人的資本の開示義務については、今のところ企業側の人事部等での対応方法に関する情報が多い印象ですが、働く側からも非常に有意義に活用できる可能性があります。

以前の記事にて、世界的な出社回帰の流れをご紹介しましたが、テレワークという働き方を考えていく上で、各企業のデータが、今後の自身の働き方やキャリア、転職先を考える上でも参考になるからです。

例えば、自身が今後テレワーカーとしてキャリアを築いていきたいと考えているとき、どのような働き先があるのかを調べるとします。企業のホームページ等を見れば、テレワークを導入しているのか、出社義務はあるのか、それはどういった理由からか、といった情報は得られますが、そのような働き方を行っている実際の従業員等の満足度がどうなのか、給与水準はどうか、といった情報を合わせてみることで、テレワークを取り入れたのちのリアルな実態がより浮き上がってくるからです。
テレワークという働き方は、もちろん様々な事情の中で止むを得ない選択肢である場合もありますが、ただテレワークさえできればいいという方は少なく、実際の業務内容や働き心地、適切な評価がされるのかといった要素も非常に重要ですよね。

これらは、テレワークができるのかどうか、といった情報だけでは見えてこないものであり、今回の人的資本の開示義務により多くのデータが公開されてくることが見込まれるため、これからテレワークという働き方を望む人にとっては、ぜひ注目しておきたいものであるのです。

また、現在は上場企業にのみ開示義務が課せられていますが、今後は段階的に対象が拡大していくことが予想されるほか、人材確保の観点からも、スタートアップや中小企業こそどのような開示をしていくことができるのかが、企業存続のキーワードになってくることも予測できます。

だからこそ、人的資本経営は、働くすべての人に関係してくると言えるのですね。

人的資本開示の例〜株式会社じげん〜

月8回まで在宅勤務が可能という制度を設けている、株式会社じげん。

力を入れている人材の教育や育成の具体的な取り組みの紹介とともに、「成長実感率 70%」「チャレンジアサイン率 81%」といった従業員のフィードバックを元にした実際の数値と、それが一人あたりの労働生産性向上にも繋がっているという結果を開示しています。

人的資本の開示と言われても、堅苦しくて難しいものと思ってしまうかもしれませんが、昨今では株式会社じげんのように、投資家を主に意識し財務状況に特化した有価証券報告書ではなく、ビジネスモデルや経営戦略等の非財務データも盛り込んだ統合報告書を公表する企業も増えており、デザインも洗練されていて、読みやすく工夫されたものも出てきています。

参考:統合報告書2022|株式会社じげん

人的資本の開示を活用して、これからのテレワークを考えよう

今回は、昨今注目が高まる人的資本経営と、義務化が始まった人的資本開示についてを紐解きながら、なぜテレワーカーが人的資本の開示に注目すべきなのかについて、解説しました。

出社回帰の動きも見られるなど、働き方に大きな動きが見られる中、テレワークという働き方を活用した今後のキャリアや人生を考えていくには、ぜひ各社から公表されている人的資本のデータを活用してみましょう。