テレワークには、プライベートと仕事の区別が難しいという課題があります。

例えば、仕事が休みの時間帯にも仕事に関するメールが届いて、気になって仕方がないと感じる方もいるのではないでしょうか?
組織的に仕事のオンオフの切り替えができる環境を作っていかなければ、社員はストレスを溜めてしまうかもしれません。

今回は、世界で注目されている「つながらない権利」について詳しく解説します。

テレワークで注目される「つながらない権利」とは

皆さんは「つながらない権利」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

つながらない権利(right to disconnect)とは、「労働者が勤務時間外には仕事のメールや電話などへの対応を拒否できる権利」のことを指し、2017年にフランスで施行された改正労働法の中で定められたのが始まりと言われています。この法律の中では、経営者と従業員が勤務時間外にメールなどでやり取りをすることを制限する方法を協議、方針を定めることを義務付けています。その後、この繋がらない権利はイタリアやメキシコ、イギリス等、多くの国で法整備が進められています。

各国の「つながらない権利」

・フランス:2017年、従業員数50名以上の企業を対象に「時間外の業務連絡の取り扱い」について雇用者と労働者間の協議を義務付ける法令を施行

・イタリア:2017年、スマートワーカー(時間的・場所的拘束を受けない従業員)の保護を目的としたつながらない権利について、雇用契約への明記を義務付けた法令を制定

・メキシコ:2021年、「テレワーク法」で、つながらない権利の尊重を使用者に義務化

・日本:2021年3月、厚生労働省が「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」で長時間労働対策をして「業務時間外のメール送付の抑制」を例示

なぜ、つながらない権利が注目されるのか?

つながらない権利が注目されるようになった背景には、世界で進む働き方改革があります。特に昨今の新型コロナウイルス感染症予防のためのテレワーク、リモートワークの普及により、各国で法整備が大きく進みました。

出社を必要としない柔軟な働き方は、以前から「オンオフの切り替えが難しい」「業務時間外も連絡対応を強いられる」等の課題があり、議論されてきました。こうした問題が長期化すれば、従業員のストレス負荷による休職・離職につながる可能性が高まるほか、企業の採用活動にも影響が出ます。

こうした背景から、改めて、つながらない権利が注目されているのです。

テレワークが進む日本でのつながらない権利の取り扱い

先述の通り、世界各国で「つながらない権利」の法整備が進んでおり、日本でも2021年に厚生労働省からガイドラインが発表されました。しかしあくまでガイドラインの域を出ず、残念ながら強制力はありません。

ここでは、厚生労働省から出された「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」について簡単に見ていきましょう。

テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン|厚生労働省

2021年、厚生労働省は「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を発表し、そのなかで、つながらない権利について以下のように記載しています。

<労務管理上のポイント>
・テレワークにおける人事評価制度

ガイドラインにおいて、テレワークにおける人事制度では、仕事の時間外(休日や深夜帯も含む)にメールの対応をしなかったからと言って不利益な人事評価を受けることは適切ではないと示されています。

<メール送付の抑制等に関するポイント>

テレワークの長時間労働を防ぐためには、メールの送付を抑制する必要があります。
なぜなら、テレワークの長時間労働の原因の一つとして、仕事の時間外に業務に関する指示や報告がメールで送られることが挙げられるからです。
そのため、役職者や上司、同僚などの仕事の関係者が時間外にメールや電話の自粛を命じることが有効、とガイドラインで示されています。

テレワークで「つながらない権利」が侵害されるシーンと、企業がとるべき対策

テレワークを行っている会社は、従業員の「つながらない権利」が侵害されていないかを今一度確認する必要があります。

・業務時間外もメールの返信を1時間以内に行う等の指示をしていないか
・業務時間外も電話の対応を求めていないか
・スマホの電源を常時入れることを強要していないか

仕事の時間外もメールの返信を1時間以内に行う指示をしていないか

勤務時間外に「仕事の件はどうなっているか、1時間以内に返信して」とメールの返信を求めることは「つながらない権利」の侵害に該当します。
特に、上司や取引先相手など対応を拒絶しにくい人物が指示をしがちな傾向があります。

【企業がとるべき対策】
管理職には「つながらない権利」の研修を行い意識改革を促すと同時に、取引先相手には業務時間外はメールの返信をしないことを伝えましょう。取引先との契約書などに、対応時間等を明記する方法も有効です。

仕事の時間外も電話の対応を求めていないか

勤務時間外にも関わらず、電話の対応を求められるケースが存在します。
電話対応は仕事に該当するので、本来であれば、残業代を支払うか別時間で休憩を取ることが定められています。

【企業がとるべき対策】
やむを得ず対応が必要である場合には、電話代行サービスを利用したり、時間外アナウンスを流すなどの設定を行うことで、従業員の「つながらない権利」を守りましょう。

スマホの電源を常時入れることを強要していないか

仕事に関する対応をすぐにできるよう、スマホの電源を常時入れておくように指示されるケースもあります。このような状況では、業務から解放されているとは言えません。

【企業がとるべき対策】
業務時間外は、スマホなどの業務端末の電源を切る等の指示をおこなったり、業務アプリやシステム自体にアクセスできなくする制限を設定するなど、運用設計から見直しを行いましょう。

参考:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」

まとめ

今回は、各国で注目され、日本においても厚生労働省が主体となって推進する「つながらない権利」について詳しく解説しました。

テレワークは、仕事とプライベートの境目が曖昧になりがちなので、長時間労働になりかねません。自社が「つながらない権利」を侵害していないか、そして、どのような対策をすることで従業員の「つながらない権利」を守ることができるのか、今一度確認してみてはいかがでしょうか。