2023年5月8日、いよいよ新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」に移行されました。

今から3年ほど前、緊急事態宣言やさまざまな自粛要請を受けて、企業は従業員の出社を制限してテレワークへの切り替え対応に追われました。
これを契機に、業務データをインターネット上のサーバーで保管し、時間や場所を問わずアクセスできるクラウドサービスの導入が急激に進み、従業員が自宅などでテレワークを行うためのPCや周辺機器、インターネット回線、デスクやチェア等の環境整備をサポートする企業も多くありました。

「5類」に移行されることで、行政による行動制限や水際対策もほぼなくなり、コロナ以前の形に戻りつつある中で、「出社回帰」する企業も出てきています。
せっかく日本社会にも浸透してきたテレワークという働き方ですが、なぜ出社回帰が起こっているのか。これから、テレワークはしにくくなってしまうのか。岐路に立つこれからの働き方について、考えました。

出社回帰の流れは、2021年には始まっていた

出社回帰の流れについて、まずは国外、とりわけアメリカの事例を見てみたいと思います。

多くの国が、新型コロナウイルスの取り扱いについて決めかねて、感染拡大を防ぐための対策に苦慮していた2020年3月頃、いち早く全従業員に在宅勤務を命じたのがGoogleでした。

当初は、2020年の終わりころまでを想定していた在宅勤務でしたが、数回の期間延長を経て、2022年4月から週3日の出社を必須とするハイブリッドワークへ移行したことを公式に発表しました。Googleと同じく、アメリカのシリコンバレーに本拠地を置くAppleも、2022年4月以降に段階的に出社日を増やしていく計画を発表しています。

世界的なテック企業が出社回帰していく中で、日本企業はどのような方針をとったのでしょうか。

大手日本企業の中には、GoogleやAppleよりも早く、2021年から出社回帰しているところがありました。

レシピ検索サービスを展開するクックパッドは、2021年5月から原則出社を前提とした働き方に戻し、IT企業大手の楽天は、2021年11月から原則テレワークという体制から週4日以上の出社を促す形へと改めました。

2022年に入ってからも、自動車メーカーのホンダが段階的に出社を基本とする働き方へ切り替えているほか、出社を基本・原則とはしないながらも、消費材メーカーのユニチャームは原則在宅勤務から週1回の出社へ出社頻度を増加、電通グループや日立製作所など「出社制限の緩和」として、実質出社を拡大する対応をとった企業も相継ぎました。

積極的・消極的な出社回帰

海外と日本の大手企業について、出社回帰の流れを確認しましたが、これらの流れには積極的・消極的2つの出社回帰のパターンがあると言えるでしょう。

積極的な出社回帰のパターン

クックパッドは、2021年5月から原則出社としていますが、実は、2020年2月にフルリモートワークに切り替えたわずか半年後の7月には週1回の出社に戻していたと言います。その理由は、従業員間のコミュニケーション。

コロナ禍でテレワークが推進され、そのメリットを享受し新しい働き方を手に入れた人々がいた一方で、コミュニケーション機会が減ることによる損失や課題についても多く議論されることになりました。

クックパッドにおいては、そのサービスの性質上、日々の献立に関する会話など、従業員間での些細だけれど顧客理解やサービス向上に不可欠なやりとりは、対面でこそ生まれると考え、現在の原則出社の形に至りました。

ホンダは、「三現主義(現場、現実、現物を重視する姿勢)で物事の本質を考え、更なる進化を生み出すため」として、出社を基本とする働き方に切り替えたといいます。

これらの企業は、自社の製品・サービスの性質、重要視するポリシーに則って、積極的に出社回帰を選択したパターンと言えるでしょう。

消極的な出社回帰のパターン

一方、日本企業の中には、コロナ禍で制限された「“出社制限”を“緩和”」する形で、消極的な出社回帰の判断をした企業が多くありました。

このような動きにはいくつかの要因が考えられますが、積極的な出社回帰を図った企業と同じように認識していたテレワークにおけるコミュニケーション課題や、従業員の孤独感やストレス緩和、生産性向上の施策を実施したいという事情と、テレワークを希望する社内の要望や新しい働き方を実践する企業としての価値向上や社会的責任といった事情との間での葛藤が伺えます。

また、上記で紹介した企業は大手企業であり、テレワークを実施するにあたってある程度の予算を確保し、実際にテレワーク環境を実現した一定の実績がありますが、心配なのは実態の把握が難しい中小企業です。

規模が小さいからこそ、テレワーク環境の構築にも目が行き届いた、助成金等をうまく活用できた、というケースもあるかもしれませんが、コロナ禍においてもクラウド化やデジタル化を実現するための資金や人的リソースが限られていたために、なんとかテレワークで対応しようと四苦八苦しているうちに、出社の体制へ戻った、というのが実態という企業もあることでしょう。このようなケースも、消極的な出社回帰のパターンと言えます。

新型コロナ「5類」への移行、調査で明らかになった出社回帰の“理由”

新型コロナウイルスが「5類」に移行されることを受けて、帝国データバンクが、全国の企業に対してコロナ以前との働き方の変化に関する調査を行いました。

結果は、約4割が「コロナ前と同じ」と回答し、「コロナ前と半分以上異なる」「2割程度異なる」の回答が合わせて約4割、残りの2割が「わからない」という内容でした。
さらに「コロナ前と異なる」と回答した企業の業種を見てみると、「サービス業」が4割超であるのに対し、他の業種では4割を超えるものはなく、「農・林・水産」に関しては3割にも届かない結果となっています。また、従業員数を見ると、「1,000人超」の企業が5割を超えているのに対し、「300〜1,000人」「101〜300人」と従業員数に応じてその割合が減少していました。

このようなデータからも分かるように、業種、および従業員数に応じて、実質的にテレワークの継続可否が分かれてしまっているとも言うことができます。
参考:新型コロナ「5 類」移行時の働き方の変化に関する実態調査|帝国データバンク

今後のテレワークのあり方、企業としてあり方は

「コロナ禍」「Withコロナ」という状況が、ほとんどの人々にとって予測が難しい未曾有の事態であったこと、未経験の事態であったことで、多くの企業が決定的な方針を打ち出しかねた、というのは理解ができます。個人としても、テレワークという働き方の利点は理解していたり、実感があったとしても、どちらか1つだけを選ばないといけないとなると、悩んでしまう人も多いことでしょう。

SNSなどのコミュニケーション手段、Youtubeなどのエンターテイメントに至るまで、私たちが日常で利用するサービスの多くがインターネットをベースとしている以上、今後オンラインを活用したテレワークという働き方が完全になくなる未来は想像しがたいですし、今後もグラデーションのある働き方が生まれていくと考えます。

企業にとっては、このような機会にこそ、その企業が大事にしているコアの部分が表出することになりますし、制度やポリシーを見直しをしたり、実験・検証をしながら、組織を進化させていく好機にもなり得ます。

デジタル化の格差が広がっていることには危機感を覚えますが、自力では対応の難しい中小・零細企業においても、テレワークやハイブリッドワークといった働き方の選択肢を含め、会社のコアの部分を維持しながら価値提供を継続していけるよう、国を含めた支援も期待されます。