テレワークをより有意義にするために読書習慣を!ということで、いくつかのテーマに分けて、おすすめの書籍をご紹介しているこのシリーズ。

今回のテーマは、〜テレワークの”聖地”鎌倉にまつわる企業の本〜です。

東京からも約1時間という距離にある、鎌倉。

その立地条件から、日帰りでも行ける観光地として首都圏からの旅行者にも人気の場所ですが、10年ほど前から、オフィスを構える企業やコワーキングスペースが増えています。特にIT企業が多く集まっていることから、鎌倉バレーやテレワークの聖地と言われるほど。

「働き方改革」「生産性向上」といったキーワードが世の中に広がり、仕事をする場所や環境に注目が集まったことで、地方に支社やサテライトオフィス、リモート拠点を置いた会社もありますが、今回は、鎌倉に”本社”を構える企業の創業者による著書をご紹介します。

あやゆる物、情報、人が集まる東京ではなく、あえて鎌倉に本社を置いたのは、現代の資本主義のあり方への強い意思表示でもあったようです…。

『鎌倉資本主義』(柳澤 大輔)

鎌倉資本主義』(2018年、プレジデント社)は、面白法人カヤックの代表取締役社長である柳澤 大輔さんの著書。

「面白法人」と名乗ったり、「サイコロを振って社員の給与を決める」といったユニークな制度があると聞いて、どんな奇抜な会社なのだろうと思う方もいるかもしれませんが、知れば知るほど、いたって”真面目に”面白いを追求する企業です。

2002年より鎌倉に本社を置きつつも、組織の拡大に伴って実質的な拠点はしばらく横浜にあった同社が、鎌倉の拠点を新しく拡張して本格始動し始めた2018年に出版された本著。

単純に、「自然豊かな環境で生産性アップ!」といった視点に止まらない、強い意志を持って続けてきた取り組みを知り、私自身、鎌倉という地域にも興味を持つきっかけになりました。

同社が鎌倉に本社を構えた理由は、「資本主義」に対する考え方が関係しています。

資本主義の限界論や課題などはさまざまなところで議論されている通りですが、それを変革するために一企業が具体的な行動に移す事例はまだ少ないように思います。「面白い」を追求する同社が、経済的な価値だけでは測れない「幸せ度」を増やすためのコンセプトして考えたのが、本著のタイトルにもなっている「鎌倉資本主義」でした。

鎌倉資本主義では、「自然や文化」「人とのつながり」「財源や生産性」の3つを地域資本と定めて、それらを増やしていくための具体的な活動が紹介されています。

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新たな資本主義の形を模索するという、大きく困難なトピックに挑戦し続けている同社ですが、ひとつひとつの取り組みは、等身大で自然体であることに驚きます。すべての行動は、創業より大切にされてきた「何をするかよりも、誰とするか」そして「どこでするか」という指針によるもののようです。

これからの会社のあり方を問うきっかけにもなりますし、本を読み終わると、実際に鎌倉に足を運んで、テレワークをしてみたいなと思われることでしょう。

『持続可能な資本主義――100年後も生き残る会社の「八方よし」の経営哲学』(新井 和宏)

続いても資本主義への問いかけになる本ですが、『持続可能な資本主義――100年後も生き残る会社の「八方よし」の経営哲学』(2019年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者である新井 和宏さんは、鎌倉投信という投資会社の創業者。鎌倉投信は、鎌倉という場所から、金融を通じて、持続可能な資本主義を模索する企業です。

金融というと、資本主義そのものというイメージがありますが、いままでの資本主義のあり方に問いかけるために、なぜ「投資会社」という形を選んだのでしょうか。

著者は、鎌倉投信の創業以前も、外資系運用会社という金融の世界に身を置いており、資本主義の限界を肌で感じていました。一方、「仕事をして給与をもらい、その対価であるお金でものを買う」という私たちの生活の基盤となっている資本主義そのものをやめたり、一新してしまうことはそう簡単にはできません。

そういった、イチかゼロかのような極論ではなく、現在までに私たちが築いてきた資本主義の課題点に対して、いかに現実的に、具体的に改善案を示していけるのかを考え、「投資」のあり方を見直すことでアプローチすることにしたのです。

鎌倉投信が投資をするのは、「いい会社」だけ。同社の定義する「いい会社」とは、「これからの社会に必要とされる会社」「経済性と社会性を両立している会社」です。

つまり、前述の面白法人カヤックと共通して、経済的な指標だけでは測れない「見えざる資産」つまり「経営者の脂質、社風や企業文化、社員がいきいきと働けているか」といったものを重視し、それらの企業に、短期的ではなく長期的な視点で投資をしているのです。

このような投資のあり方は、これまでの金融の常識からは外れるものであったにもかかわらず、2014年の「R&Iファンド大賞2013」で投資信託・国内株式部門1位となり、確かな支持を集めているようです。

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本著では、「いい会社」の条件ともなる「三方よし」ならぬ「八方よし」という企業のあり方が語られています。言葉だけ見ると、言うは易し…と思ってしまいそうになりますが、ひとつひとつ丁寧に、実際のそれを実現する企業の事例とともに紹介されているため、「まだまだできることがあるな」と希望を感じることができました。

テレワークの”聖地”鎌倉から、働き方のヒントを得よう

今回は、鎌倉に本社を構える企業にまつわる本を2冊ご紹介しました。

単に、働く場所として鎌倉を選択しただけでなく、これからの企業のあり方や、働き方に様々な問いかけをくれる2社の取り組み。ぜひテレワークの合間に、これからの働き方のヒントを得るためにも、読まれてみてはいかがでしょうか?